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スナックと小料理屋の間の路地の、表通りの灯が僅かに届く壁際に、白チンはしゃがんでいた。
おいおい。何に独りでそんな夢中になってんだよ。
と、気になった赤りんは、白チンの肩越しに覗き込んでみた。
白チンの前には、テーブルのようにコンクリートブロックが置かれ、
その上にカップメンと腕時計が並んでいる。
「ラーメンかよ」
赤りんが、半ば呆れたように言うと、
「バカ！ラーメンじゃねぇんだよ。そばだよ。たぬきそば！」
と、白チンは、真剣な眼差しを時計から逸らさずに、勢いよく言い返す。
その時計は、2、3日前、遠い知り合いだという野郎から巻き上げていたヤツだよな。
大振りなデザインが見やすいとか言って、はしゃいでいたが、このために必要だったのか？
白チンは、相変わらず時計から目を離さずに言い続ける
「だいたいな、3分だぞ。カッチリ3分！そーじゃなきゃダメなんだ」
「ハイハイ」
「ハイハイじゃねーよ。オメエのは5分かもしんねぇけど、俺のは3分なんだ、短けぇ勝負なんだよ！」
「はぁ～？ 何よ、じゃあ俺のもあるの？」
「・・・。 ねぇーよ」
本当にこいつはバカだ。と赤りんは思った。

以前、テレビのCMを見ながら、赤いのはうどんだから5分もかかるけど、
緑のはそばだしな、3分で出来上がるんだぞ、偉いよな。
と言って白チンが喜んでいたのを思い出した。
その時、お前のジャージは緑じゃなくて白だろうと言おうと思ったが、
あまり嬉しそうに笑っているので、なんとなく言えなかった。
軽くタメ息をつきながら、あたりを見ると、白チンの足元にヤカンが置いてある。
どうやら、お湯は隣のスナックのママに沸かしてもらったようだ。
「店の中で、やらしてもらってりゃよかったじゃねぇか」
何も、こんな薄暗い路地で食べようとしなくたっていいだろうに、と思っていると
「そこまでしたら、ワリィーからな」
と言う。オマエの遠慮は、どのへんにあるんだ？

「よしっ。できた！」
満面の笑顔で蓋をはがす白チンを見やりながら、
コイツが蕎麦を食い終わるまで付き合ってやる必要はねぇーわな。
と、赤りんが通りに向かって戻りだしたとき、白チンの悲鳴があがった。
「ぉ゛ぉ゛ーーーっっっ！　ハシが、ねぇーーーっ！！！」
本物のバカだな。　（つづく）