「ねぇ、シロ、私の誕生日、赤りんさんと 1ヶ月違いなのよ」
そう言っていた女は、誕生日プレゼントを手に入れたら、次の日にいなくなった。
赤りんの誕生日もとっくに過ぎたんだから、あれから 1ヶ月以上経ってるってことだよな。
なのに、部屋にはまだ小物やら何やら、それこそハブラシまで置かれたままになっている。
いい加減、諦めの悪い男だったんだなぁ～、俺。

煙草の煙をぼぅーっと眺めながら、白チンは雀荘のカウンターに座っていた。
時々頼まれては、ナイト営業の手伝いをしている。
今夜は二卓囲まれていて、その中には、赤りんもいる。
赤りんは麻雀で稼いでいるだけあって強い。むしろ巧い。もちろん今も勝っているようだ。
その点、白チンは店を手伝うことはあっても、赤りんと一緒のとき以外打つことはない。
点数が数えられないからだ。

3時を過ぎた頃、手前の卓の常連客が声をかけてきた。
「おーい、焼きソバくれ」「あー、俺も」「こっちは、ビール追加な」
「ヘーイ。・・・安藤さーん、焼きソバ、ふたッつ」
厨房に注文を伝えてから、冷蔵庫のビールを取り、栓を抜いて卓まで運ぶ。
「そういえば、シロ、お前、最近女連れじゃねぇーな」
「ヘヘ。俺、捨てられたんッスよ」
「そりゃーいい。女なんかいねぇ方がいいぞ」 「それもそーだ」 「「「ワッハッハ」」」
へへへ。白チンは愛想笑いをしながら、別の卓の赤りんの様子を窺ってみた。
聞こえないフリをしているのか、赤りんは無表情で配牌を見つめている。
冷たいな～赤りん。一緒に笑ってくれた方が、俺の傷も癒されるのになぁ～。

ナイト営業は違法なので、外が明るくなってきたら終わりになる。
「また、どーぞー」
客たちに挨拶をし、コップを洗う手元から視線をあげたとき、店内に赤りんの姿はなかった。
溜まっている空ビンを下に出しておいてくれというので、
ビールケースを持ち上げ、ガチャガチャ鳴らしながら表に出ると、
階段の中ほどで、赤りんが壁に寄りかかって立っていた。

「あれ？赤りん、帰ったんじゃなかったのかよ」
しかし、赤りんは答えず、ジャージのポケットから手を出すと、白チンに向けて伸ばした。
「ほら。これでエアコンが買えるだろう」
渡そうとしたが、白チンの両手が塞がっていたため、ケースの上に万札を乗せる。
「へ？」
久し振りに見た大金に固まっている白チンをそのままに、赤りんは階段を降りていった。

この十日間、高いレートで打ち続けていたせいもあって、赤りんは少々疲れ気味だった。
部屋に帰るとスグにシャワーを浴び、コーヒーを淹れながら一息ついていた。
それでも、これで、あと何日かすれば、白チンの部屋にもエアコンが付く。
そうすれば、ここに入り浸ることもなくなるだろうし、女にも逃げられないだろう。
少し甘かったかもしれないな・・・。そう思いながら、赤りんは満足気にコーヒーを口にした。
俺にだってプライベートってもんがあるんだよ、白チン。

Bu・Bu・Bu・Bu・・・・・・。やっと眠りについた赤りんの枕元で携帯が振動している。
太陽は高くなっていない。まだ午前中のようだ。
出るのも億劫だったので放置してみたが、スグにまたかかってきた。
（ったく・・・）
携帯を手に取ると、筋肉バカからだった。思わず切ってしまいそうになる。
「んだよ・・・」
精一杯嫌そうな声で出たのだが、白チンには意味を成さなかった。
「ぉ゛ーっ。赤りんっ！！　オメエ知ってたか？　つーか、さっさと出ろよ！
　あのな、エアコンって持ち帰りできねぇんだってぞ！ビックリだよな～」
「・・・・・・」
とても答える気になれなかった。何かを言う気力も湧いてこない。
「でな、配達してもらうんだけどよ。俺、オメエんチの住所分かんなくってサ。なぁー住所！」
「・・・・・・（俺んチ？・・・何で俺んチなんだ？） 」
「なぁーって。聞いてんのかよぉ～？　住所だよ。住所！早くぅ～っ！」
何か言わなければならないと思うのだが、赤りんの頭は眠ってしまいたいと訴えていた。