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意識が朦朧とし、頭がグラグラする。
起き上がろうとついた手の下で段ボールが崩れ、赤りんの身体はゴミの中にますます沈んだ。
（・・・ったく）
この際、しばらくこのままでいようかと思い薄汚れたビルの壁を見上げてみる。
チカチカと瞬く消えかけたネオンサインをぼんやり眺めていると、
遠く、白チンのがなり声が聞こえ、現実に引き戻された。
厄介事は勘弁してくれよと思いながらも、声のする方へと僅かに顔を向けてみる。
そこには、棒のようなものを手にし、ふら付きながら女に向っていく白チンがいた。

☆

ほんの数分前、赤りんと白チンは、安藤から頼まれて貸し金の取り立てをしていた。
白チンに締め上げられ張り倒された男の財布には、予想以上に金が入っていたため、
赤りんは、言付かってきた金額より多めに金を抜き取った。
時間外手数料だと言って枚数を数えている赤りんの隣で、
取り立てに初めて付いてきた後輩は、この後のご褒美を想像して嬉々としていた。
調子づいた白チンが、通り掛ったコスプレパブの女に声をかける。

しかしその直後、女の手によって 10メートルほど放り投げられた白チンの身体は、
路地から表通りに向って、まさしく飛び出し、
ちょうどその場を歩いていた数人の男女の目の前に、頭から落下した。
足元で呻き転がる白チンを、彼らは目を見開いて呆然と見下ろしていた。
人は本当に驚くと息を呑む。タイミングよく悲鳴など出ない。

続けざま、状況が理解できずに動けないでいた後輩が一蹴され、
そして、赤りんと女の目が合った。
その無機質な目を見た瞬間、赤りんは悟った。
闘うべき相手ではない。
咄嗟に、自分の身体を受け止めるであろう背後を確認し、
少しでも威力を軽減させるため、自らも後方に跳ぶようにした。
にもかかわらず、人間業とは思えない力で殴り飛ばされた赤りんは、
高く積まれたダンボールとゴミ袋の山まで一気に飛ばされ、埋もれてしまったのだった。

その頃、白チンも何が起こったのか解らないでいた。
息が詰まり、呼吸もままならない。どこがどう痛いのかさえ解らない。
背中を丸め喘いでいるうちに、どうにか息はつけるようになってきたが、
今度は目の中に血が流れ込んできた。手の甲で拭うと慣れ親しんだ鉄臭さが広がる。
頬を伝い顎の先から滴った血が、アスファルトの上に点々と増えていく。
俺が何をした？
理不尽な仕打ちに無性に腹が立ってくる。
赤く霞む視界の中で真っ直ぐ立つ女を見据え、白チンは力の入らない膝に爪を立てた。

（つづく）