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マンションまでの道を、赤りんは川沿いに歩いていた。
水銀灯の冷えたあかりが、白く吐く息と色素の抜けた髪を照らし出している。
途中でコンビニに寄り、煙草と一緒にいつもの雑誌を買い求め、
ちょうど部屋に着いたとき、携帯が後輩からの着信を知らせていた。
やたらとテンションの高い後輩が一気に捲し立ててくる。

「俺、今、病院の帰りなんスけど、シロさん入院しちゃいましたよぉ～。
　っつーか、暴れるんで眠らされたんッスけどね（笑）
　脱臼してたみたいッスけど骨は大丈夫だったみたいで、シロさん頑丈ッスよね～。
　何針だったかなぁ～。頭、縫われてましたし…」
「暴れた？ なんで？」
「え～。救急車ん中で気がついたシロさんに明石さんのコト聞かれたもんで、
　女んトコ追いかけてったみたいッスよって答えたんス。
　したらもうー。バカ女に金かっぱられたんだっつって怒りだして、
　降りるっつってきかないし、そっからずぅーっとですよ～。大変だったんスよ～（笑）」
「・・・？」
「病院着いてからも、お巡りに向かって、俺の方が被害者だ！ってキレまくってましたもん。
　あ。一人、お巡りがモロぶん殴られてましたよ（笑）
　俺、明石さんが女を追いかけてったの、なんとなく分かったんスけど、
　頭イテーやら気持ちワリィーやらで何の役にも立たなくて、ほんとスンマセン」

謝り続ける後輩に、いいから早く帰って休むように伝え、赤りんは電話を切った。
女に金を盗られたって？
どこでそういう話になってしまったのか分からないが、
どうやら赤りんの手元にある回収した金は、
白チンの勘違いのお陰で本物の臨時収入に化けたようだった。


☆ Side 白
赤りんが一人で追いかけてったらしい。ちくしょう何なんだあのバカ女。早く行かなきゃ…。
なのに、目が覚めるとベッドの上だった。
入院なんかしてられるか、冗談じゃねぇ。そんな金ねえよ。
あー。そーいえば肝心な金もかっぱられちまったんだった。
安藤さんに謝りに行かなきゃなんねぇな。

ベッド脇の籠から、血だらけになった服を手に取る。
病院服を脱ごうとして腕を上げると、肩のあたりがビギビギ痛んだ。
痛ェーーーっ！無理だ脱げない。
まだらに赤く染まった白いジャージをはくのに腰を曲げる。
イテェ、イテェ、イテェーーーーーっっ！！ちくしょう、ホントに涙が出てきた。
上着を羽織って、病室から出た。

看護師には見つからなかったが、警備員に呼びとめられた。
「…帰んだよ」
低く答えると、それ以上何も言わなかったが、どこかへ連絡したようだった。
空が薄明るくなってきている。
雀荘の客が、太陽が黄色く見えると言っていたのを思い出す。
少し歩いただけで、息が切れる。無理だ。タクシー拾おう。あ。金がねえ。


☆ Side 赤
チャイムが鳴った気がした。
時計を見ると、まだ宅配便や客の来るような時間帯ではない。
夕べからの頭痛が残ってるような気もするし、空耳かもしれない。
その後、鳴りもしないので、寝直そうと思い横を向くと、今度はドアを叩く音がした。

ドンドンドン。
「赤りーん。おーい、赤りーん」
白チンだ。病院じゃなかったのか？
ドンドンドン。
「あーーーかりぃーーーん」
勘弁してくれ。なんでいつもお前は俺が寝てんのを邪魔するんだ。

ドンドンドン。
「うるせぇよッ！」
俺は、思いっきり眉間にしわを寄せながらドアを開けた。
目の前には、頭に包帯を巻いてニッカリ笑う白チンが立っていた。
「お。ワリィワリィ。タクシー代出してくんねぇ」
白チン。俺の頭が痛いのは、お前のせいだな…。